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何が怖い? 1

作者: 花室 芽苳
last update 最終更新日: 2025-07-05 20:02:02

「……紗綾……紗綾」

 御堂の低い声と共に手首を捕まえられて、引き寄せられる。 スーツ越しでも分かる逞しい腕にで抱き寄せられて、私は逃げ場を失う。

 絡みつくように私の動きを封じる御堂……

「御堂、お願い……」

 強引に唇を重ねられて「離して」という私の言葉は、そのまま御堂の口内へと吸い込まれる。

 抵抗したくても、どうやってもこの男には叶わない。 このまま御堂の思う通りになってしまうの?

「…… 紗綾。 お前はどうせ、俺からは逃げられはしない」

 御堂が私に向かって勝者の笑みを浮べた瞬間、バチッと音を立てるように瞼が開いた。

 さっきまで真っ暗な室内にいたと思っていたけれど、外はもう明るくなり始めてる。

 …… ここは間違いなく私の部屋、そしていつものベッドの上。

「最悪の夢……」

 だけど夢で良かったとも思う。 昨日の事がショックで、御堂の事を夢にまで見てしまうなんて。

 昨日、あれから私は御堂が手を離した隙に何とかあの場所から逃げ出す事が出来た。 鞄を持って全力でビルから飛び出した私を、何人かの社員が驚いた様子で見ていたけど気にする余裕なんてなくて。

 これからも御堂は、ああやって私にちょっかいを出してくるのかしら?

 次、あんな風に捕まえられて触れられたならば、私はどうすればいいの?

 今の私に出来る御堂への対抗策なんて、いくら考えても一つしかなくて。 だけれど、それは彼にも簡単に予想出来るに違いない。

 でも…… それでも、私はあなたから逃げきってみせるわ、御堂。

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    「そんな事になれば俺が紗綾《さや》を壊しかねないんだが、それでも良いと?」 余裕が無いような事を言いながらも、結局は私を気遣ってくれているのだ。要《かなめ》の本気がどれだけかを分かっているつもりで、まだ理解出来てなかったのかもしれない。 それでも、今望むことは変わらなくて…… 「壊れるほど愛してほしい、そんな時だってあるのよ。私だって貴方がこんなにも好きだから」 「紗綾っ……!」 その一瞬で要の目つきと表情が今までよりもずっと獰猛なものに変わった気がして、私の身体が痺れるような喜びを感じた。嬉しいの、こんなにもこの人の心を揺さぶれるのが自分だということが。 優しかった手つきが今までよりもずっと熱を帯びたものに変わって、私が反応する場所を執拗に攻めてくる。 「紗綾、愛してる……」 耳元でそう囁かれ背を仰け反らせれば、彼の前に晒された胸の頂きを指の腹で念入りに弄られて。ゆっくりと胸の前まで降りて行った要に今度は口に含まれ舐めしゃぶられて、快感でどんどんお腹の下が疼いてくるのがわかる。 彼の厚い舌で舐め転がされ吸われれば、もっともっとと言うように要の頭を両腕で抱え込んでしまう。理性なんてどうでも良くなるほどの、快感が与えられるから……身体だけじゃなく、心まで裸にされている気がして。 「あっ……わた、しも……っ、んんっ……!」 きちんと彼の想いに応えたいのに、私もだと言い終わらないうちに次の刺激が身体に与えられて。閉じきれなくなっていた両脚の間に要の手が滑り込み、ゆっくりとその中心部を指で撫で上げた。 クチュリ……その場所からはっきりと聞こえた水音に、一気に恥ずかしさで顔が熱くなる。感じすぎてその場所が濡れているだろうとは思っていたが、滴るほどだったなんて。淫らな自分を彼はどう思うだろう? そんな不安から顔を隠そうとすると…… 「堪らないな、こんなに紗綾が感じてくれているなんて。ちょっと約束を守れる自信がなくなりそうだ」 そう呟いた要の瞳はギラギラと欲望を灯していて、私が思っているよりずっと彼も興奮しているのだと気付く。けれど要の反応をじっくり見ている余裕なんて与えられるわけがなく…… 愛液を纏った指が中に入れられたかと思うと、そのままグルリと掻き回されて感じる場所を探り当てられる。私が反応すれば、彼は執拗にその場所を指の腹で押したり擦ったり

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